三田紀房「砂の栄冠」84話感想（週刊ヤングマガジン連載）

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砂の栄冠　第84話「１千万円以前のヒロ」

（週刊ヤングマガジン2012年3月19日／16号）

センバツ出場する石巻工の選手も読んでる砂の栄冠（ソースは報知新聞）。
単行本８巻は、再び七嶋がピンで表紙。
大阪杏蔭の中盤までを収録。巻末にはオリジナル応援曲のパート譜つき。
三田紀房が久方ぶりに描く甲子園の魔力と魅力をご堪能ください。

＊

大阪杏蔭戦の翌日、樫野病院（七嶋母が勤務しているとこ）。
マネージャー遠藤は、トクさんのためにスポーツ新聞を買い込んでいました。
当然見出しは１失点完投＆サヨナラ２ランを放った七嶋。
眼鏡をかけて、嬉しそうに読むトクさん。
しかし、どこか申し訳なさそうでもあります。

＊

「もし私が一千万を託したりしなければ、七嶋くんも普通の高校球児として野球を楽しめたのかもしれないのに」
53話でも言ってましたが、トクさんは七嶋に重荷を負わせたことをいまだに気にしていました。

＊

しかし、遠藤は「トクさんのおかげで七嶋が成長できた」と言います。
もともと適当で自己中な性格の七嶋。野球がうまいだけの大きな子供みたいなもの。
一千万円があったからこそ大きく変わりました。

＊

以下、エンドランによる回想。
両親の離婚をきっかけにやる気をなくし、水泳や少年野球をやめた七嶋。
彼を野球に戻したのが樫野中学時代の中村先輩でした。
毎日教室まで行き、部活に参加するよう声をかけていた先輩。
練習でも面倒を見たらしい。
「人の半分の努力で人の三倍うまくなる」七嶋は、中学２年で県大会優勝に貢献。

序盤出ただけで印象の薄い中村先輩ですが、めちゃ面倒見がいいですね。
この話を読んだ後だと、１巻の涙がせつない。
ぜひ慶応では輝いて欲しいものです。

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そんな世話になっておきながら、実は樫野以外の高校に行こうとしていた七嶋。
理由は、百周年で甲子園を目指す野球部は窮屈そうだから。
しかし、七嶋母が「中村さんへの恩を返しなさい」と説得。
最後はビンタまで食らわせて樫野高校に行かせました。

＊

という具合に、まわりの支えがあって才能を開花できた七嶋。
トクさんも間違いなく彼を支えた一人。
だから悔やむことなく応援して欲しい、と七嶋母。
ええ話や……。ジャンクスポーツなら浜ちゃんが「カットや……」と言ってるはず。

ところで気になる事が一つ。
七嶋母と遠藤が一千万円の存在を知っている事に、トクさんが疑問を持っていません。
テンポを重視する三田さんですから、説明のシーンは省略したんでしょう。

＊

一方、樫野野球部はどこかで練習中。
七嶋はマスコミのインタビューを受けていました。
取材は七嶋ばかりのようですが、部員は嫉妬する気もない様子。完全ワンマンチームだしね。

＊

七嶋は、取材の意味をよくわかっていました。
大阪杏蔭での活躍で、全国区の選手になった彼は、いわば人気商品。
マスコミの宣伝で商品にいいイメージをもってもらうため、七嶋はしっかりした受け答えで取材をこなします。
マスコミの大人たちにも「今時珍しい立派な高校生」と非常に好印象。

＊

記者たちが去った後、七嶋は……