安部結貴「あなたの子どもは『うつ』かもしれない 仕事に教育に『頑張る』親ほど要注意!」
2009年6月、実業之日本社発行。
「うつ」歴15年のフリーライター、安部結貴さんの著書。
ご自身の闘病については「わたしは働くうつウーマン」に詳しいです。

あなたの子どもは「うつ」かもしれない

子どものちょっとした異変は「思春期・反抗期だから」で片付けてしまいがちですが、
実は「うつ」によるものかもしれない。
子どもの「うつ」を早期に発見し、深刻化させないための一冊。

メインターゲットは子育て中の親御さんですが、
「うつ」闘病中の大人が読むのも良いです。
特に、「頑張る」親が息苦しかった記憶のある方は、読むと気が楽になるかもしれません。

安部結貴さんの著書の感想は、下記にまとめています。
漫画・本 安部結貴

◎構成
第1章 ちょっとした「異変」に気付いていますか?
 「うつ」度を診断! 子ども「うつ」チェックリスト
第2章 間違った対応をしていませんか?
第3章 大人の「うつ」も、やっぱり親のせい?
第4章 子どもの「うつ」解消メソッド


◎概要
大人もうつ病になるのなら、子どももうつ病になります。
第二次世界大戦中には、乳幼児が泣きも笑いもしなくなった、
というケースもあるくらいです。
参考:細川貂々&大野裕「ツレと貂々、うつの先生に会いに行く」

大人であれば、「うつ」になっても休養をとり、
自力で心療内科などに通院して立ち直ることもできます。

ただ、子どもが自力で回復するのは難しいでしょう。
やはり親の理解と対応が欠かせません。

「うつ」への理解を深め、子どもに間違った対応をしないためにはどうすればよいか。
実例と、著者自身の闘病経験を交えて書かれています。

親向けではありますが、今「うつ」に苦しんでいる大人の方にもおすすめです。
親に対して苦い記憶があり、それを奥底に隠したまま大人になった方。
読むことで、少し気がまぎれるかもしれません。


◎感想
印象的なくだりを取り上げながら、感想を書いてみます。
非常に長くなってしまったので、お付き合いいただけるところまでお読みください。


★病気になったのは、親が原因です
親だけが悪いとは言いませんが、
子どもがうつ病になる原因の一つに親が関係していることは事実なのです。
(4p)

最近もてはやされるアドラー心理学では、原因論ではなく目的論が使われますね。

×「親が、うつになりやすい性格を作ったのが原因で、子どもはうつになった」
○「子どもが閉じこもりたい、引きこもりたいという目的でにうつになった」

というわけ。
にわか仕込みの知識で「人のせいにするな。苦しいのは自分が選んだ結果だろう」と
エラソーに一説ぶつ人がいますが、
それで苦しんでいる人間の気持ちが楽になりますかね?
崖から突き落とすような、残酷な言葉ですよ。

「うつ」の子どもなら、なおさらです。

ちなみに、人を使うお立場の方は、上記の目的論がお好きでいらっしゃる。
「部下がうつになったのは、ボクチン/アタクシのせいじゃないモン! 部下自身のせいだモン!」というわけ。

ちょいと脱線しましたが、親が子どもに与えている影響は大きいです。
大人になってもなお、影響し続ける場合があります。

そういう人は、「今苦しいのは、親に原因の一端がある」と考えてもいいと思います。
うつ病になると、自分を責めやすいですから。少しでも楽になるために。
ただ、親に面と向かって責めるまではしない方がいいでしょう。
何も解決しない上に、お互い辛くなるだけだから。
ただ、距離を置くだけでいいと思います。


★うつ病は脳の病気
うつ病というのは、脳内ホルモンのセロトニンが減少して起こる脳の病気です。
気の持ちようでどうにかなる病気ではないということを、まずは知っておいてください。
(4p)

うつ病は心の病気などと言いますが、脳の異常から始まって全身に影響が及ぶ病気です。
脳も臓器の一部。「心」という、あいまいなものではないです。
「死ぬ気でやれ」「気合だ気合だ気合だ」「やればできるは魔法の合言葉」などの精神論は無駄ですよ。
そんなのは巨人の星世代の間だけでやってください。


★信じているから大丈夫、ではない
「私は、うちの子を信じていますから」という親がいます。
一見すると素晴らしいことのようにも見えますが、実は、育児放棄にも近い考え方なのです。
「信じているから大丈夫」と、親の責任を放棄しているのですから。
(22p)

共働きの親の子どもですと、おのずと自分の事は自分でするようになります。
特に長男・長女はね。
何しろ、助けを求めても
「今忙しいの!」
「自分で何とかしろ!」
「もうお兄ちゃん/お姉ちゃんでしょ! しっかりしなさい!」
と、怒鳴られるのがオチですからね。
親の余裕のなさを感じて、彼らを怒らせないように、煩わせないように立ち回る事を覚えます。

その結果、親は「我が子は大丈夫だ」と思い込みます。
外からはさぞ理想の家庭に見えることでしょうが、子どもの心はいつ壊れてもおかしくない。
そういえば、うつになるのは一人っ子と長男・長女が多いそうです。

ちなみに私は三人兄弟の一番上であり、上記の怒鳴られ方は全て体験しました。
親をなじりこそしませんが、死ぬまで忘れないでしょう。
死後の世界があるなら、地獄行きかもしれませんね。


★子どもは親の鏡
子どもは親の鏡です。そして、まだ抵抗力がないのです。
子どもが健康に育つために、せめて家庭内では、平安と愛をふんだんに注がなければならないのです。
(117p)

部屋、食事、服、娯楽、教育。
それらを与えるのは大変だと思いますが、それで充分とは言えません。

仕事でストレスを溜めこみ、家では何をきっかけに爆発するかわからないお父さん。
ネチネチくどくど、子どもをなじり続けるお母さん。
金銭の余裕はあっても、平安や愛はありませんね。
私が育ったのはこういう家庭です。

マイホームを2つ建て、ローンは2軒とも予定より早く完済。
地方とはいえ、中々できることではありません。
しかし、私は家に愛着が湧きません。
帰ってくつろげるとも思いませんし、楽しかったことも思い出せません。


★反抗期を迎えない子ども
最近、反抗期を迎えない、大人しい子どもが増えているというのです。
彼らは内にこもって、自分の感情を表に出そうとしません。
これは実は、危険な兆候です。
なぜなら、彼らには、心から信頼できる人がいないからです。
(139p)

しつこいようですが、私の体験を例にとりましょう。
怒鳴る父親、ネチネチとうるさい母親。
彼らを怒らせないことに心を砕いた私は、反抗期らしい反抗期もないまま、大人になりました。
二人と腹を割って話したことも、悩みを相談したこともありません。

「忙しいのだから邪魔してはいけない」「下の兄弟がいるからしっかりしなくてはいけない」
という思いと同時に、
「この人たちは、信頼はできない」と感じていたからです。

父親は国立大学出のエリートというプライドがあり、食事の席では政治家をよくバカにしていました。
(本人はただのサラリーマンですが)
母親は六人兄弟の末っ子で、
「親(私からみれば祖父母)は何もしてくれなかった。自分のことは全部自分でやった」と自慢げに語るの好き。

気付いたら、心を開かないようになっていました。
とにかく勉強し、「良い子」「自慢の子」「立派なお兄さん」であろうとしました。

結果はどうか。
誰に対しても壁を作り、孤独感に病んだ三十路の男の出来上がりです。
まあ、反抗期があったところで、結局は同じだったかもしれませんが。


★周囲は大らかに
自分一人では本当に不安になるのがこの病気です。
せめて、身近な家族は、ニッコリ笑って励ましてあげてください。
ただし、必要以上に声をかけるのは控えてくださいね。
(178p)

うつ病の人は放っておいてもダメですが、世間話などの会話となると億劫。
周囲にとっては非常に面倒くさい病気です。
だから話すなら手短に。優しく穏やかな表情で。

親が神経質な場合は、患者は多分安らげません。
またまた実体験から言うと、
父親は電気のつけっぱなしやホコリひとつにも敏感な、異常なほどの潔癖症です。
電気のつけっぱなしは、つけた本人を怒鳴りつけて呼び出し、消させます。
ゴミについても同様。

うつの息子に対しても、父は自分のスタイルを変えようとはしませんでした。
このような家の場合、体にむち打ってでも一人で生活した方がいいと思います。


★完璧は求めない
うつ病患者を看病している間、あなたは意識していい加減になってください(196p)

両親の愚痴はとうに読みあきたかもしれませんが、また実体験を。

うつが少し落ち着いた頃でしょうか。
母親に「ちょっと元気になってきた」と伝えると、
「じゃあ仕事はいつから探すの? 公務員試験勉強でもしたらどうなの?」とおっしゃる。

公立校の教員の母は、良かれと思って言ったのでしょう。
言葉のナイフでふさがりかけた傷口をズタズタにしたとは、全く思っていないでしょう。

ちょっと回復したからといって、自分の理想像を求める。
しかし、いきなりそんな勉強に邁進する気分にはなれません。
父と同様、母も病気の理解者ではない、と私は思いました。


★素人判断はしない
子どもの行動について、親が勝手に判断してはいけません。
(中略)
素人考えの勝手な判断はしないこと。
(202-204p)

よくあるのが、薬を飲むのを止めさせることですね。
「薬を飲まずにうつを治す」「薬に殺されるな」という刺激的なタイトルの本もあります。
このような本を読んで、あるいは自分の経験だけで、服用を止めさせるのは危険です。

薬には確かに副作用があります。抗うつ薬や抗不安薬もしかり。
しかし、医者は経験と研究に基づいて、病状を診察した上で適切な薬を処方しています。
まず医師の判断を信頼するべきです。
全ての治療は医師への信頼からです。


◎イラストについての余談
カバー・本文イラスト/マケーレブ・エイミー

この方のタッチは「わたしは働くうつウーマン」漫画担当の大葉リビさんとよく似ています。
たまたま似ているのか、同一人物でどちらかがペンネームなのか。
ともかく、挿絵が読みやすさに一役買っているのは確か。
| 漫画・本::安部結貴 | 23:51 | comments (3) | trackback (0) |
コメント
ご快諾頂き、ありがとうございます。
| 安部結貴 | EMAIL | URL | 15/10/21 13:58 | dVHXseLw |
安部結貴様、初めまして。
当ブログを書いております惣一郎と申します。コメントいただき恐縮です。
転載していただいて構いません。
愚痴っぽい、まとまりのない文章ですが、お役に立てれば幸いです。
よろしくお願いいたします。
| 惣一郎 | EMAIL | URL | 15/10/19 14:55 | SCTkzU6c |
初めまして。安部結貴です。
アラサーSEさんのページを編集者が見つけまして、教えてくれました。
他の関係者にも紹介したいのですが、転載させて頂いても良いですか?
宜しくお願いします。
| 安部結貴 | EMAIL | URL | 15/10/19 07:49 | dVHXseLw |
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