「巨人軍は永久に不滅です」
長嶋茂雄、引退時の名文句は非常に良く知られています。
ただ、そのようなスピーチの前後は何があったのか、大スターが引退にいたるまでの経緯は、
40年の時間の中でそぎ落とされ、容易に知ることができなくなりました。
1974(昭和49)年10月14日。
この本は、選手・長嶋のラストイヤー、そして「最後の日」のドラマを多くの証言から再現をこころみています。
私は長嶋さん引退後に生まれた世代なのですが、
この本を読んで、当時の「熱」をわずかですが感じることができました。
「時代が作ったスター」「時代の求めに応じたスター」。
本書では、長嶋茂雄をそのように表現しています。だから、二度と匹敵する人物は出てこないとも。
高度経済成長で日本が戦争で失った誇りを取り戻そうとする中、
登場したのが長嶋茂雄でした。
実力はもちろん、天覧試合のサヨナラホームランのように
結果を求められる場面で必ずそれに応えたヒーロー。
がむしゃらに働く人々が、常勝する巨人や長嶋に自分を重ね合わせた、といいます。
だからこそ、引退は大イベントでした。
本書は記者だけでなく球団・マスコミ関係者の証言も多く、多角的な視点から「最後の日」を追体験できます。
中日とのダブルヘッダー終了後、マウンドでスポットライトを浴びながら、
冒頭の名文句が生まれるわけですが……。
当時その場にいた人間にとって、最も印象に残ったのはその場面ではないそうです。
第1試合終了後、長嶋選手は予定になかった場内一周を行いました。
ファンへの別れを告げるため、騒動を危惧する関係者を説き伏せての行動だったといいます。
応援してくれたファンのための場内一周。これこそが、真の引退セレモニーだったと。
今は突出した超一流選手・スターの時代ではなく、
多くの一流選手が活躍する時代です。
今の野球も面白いですが……当時の野球も見てみたかった、誰よりもファンのためにプレーするヒーローも見てみたかった。
そんな気にさせる一冊です。
1つ難点を挙げるとすれば、引退同日に起こった「三井物産爆破事件」について項をちょっと割きすぎかな、とも思いました。
時代を知る、という意味では良かったですが、野球と直接関係ないので。
☆主な登場人物(所属・肩書は1974年当時)
長嶋茂雄
松井秀喜
小野陽章(巨人広報部長)
玉木雅治、馬立勝(報知新聞記者)
高田実彦(東京中日スポーツ記者)
丸井定郎(後楽園球場副支配人)
山崎隆(大学生)
高木守道、新宅洋志、金山仙吉(中日)
黒江透修、横山忠夫、樋沢良信(巨人)
松垣吉晃(日本テレビプロデューサー)
田中正一(愛宕署刑事課長)
戸島國雄(警視庁鑑識課)
徳光和夫(日本テレビアナウンサー)
深澤弘(ニッポン放送アナウンサー)
長嶋茂雄 最後の日。1974.10.14(鷲田康/文藝春秋)
人生賭けて 〜苦しみの後には必ず成長があった〜(金本知憲/小学館)
中継ぎ投手 荒れたマウンドのエースたち(澤宮優/河出書房新社)
決めて断つ(黒田博樹/KKベストセラーズ)
采配(落合博満/ダイヤモンド社)
野球にときめいて 王貞治、半生を語る(王貞治/中央公論社)
プロ野球スカウトの眼はすべて「節穴」である(片岡宏雄/双葉社)
伝える わたしが見てきた野球80年(杉下茂/中日新聞社)
愛甲猛のプロ野球ガチンコ観戦ノート(愛甲猛/オークラ出版)
野球を学問する(桑田真澄、平田竹男/新潮社)
スカウト プロ野球の輪郭をふちどってきた男たち(安倍昌彦/日刊スポーツ出版社)
球界の野良犬(愛甲猛/宝島社)
PL学園OBはなぜプロ野球で成功するのか?(橋本清/ぴあ)
絆 冬は必ず春となる(岩隈久志/潮出版社)
133キロ怪速球(山本昌/ベースボール・マガジン社)
投手・桑田真澄の青春(石川好/シンコーミュージック・エンタテイメント)
私の履歴書 プロ野球伝説の名将(鶴岡一人・川上哲治・西本幸雄・稲尾和久/日本経済新聞出版社)
アンダースロー論(渡辺俊介/光文社)
魂のフルスイング(小笠原道大/KKロングセラーズ)
甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯(門田隆将/講談社)
スト決行 プロ野球が消えた2日間(朝日新聞スポーツ部/朝日新聞社)
野球肩・野球ひじを治す本(川島堅/マキノ出版)
背番号三桁「僕達も胴上げに参加していいんですか?」(矢崎良一ほか/竹書房)
もうひとつのフィールド・オブ・ドリームス 伝説のエース 小川健太郎物語(中村素至/新風舎)
左腕の誇り 江夏豊自伝(江夏豊/構成・波多野勝/草思社)
忘れられた名投手-北井正雄と野球のぼせモンたち-(高井正秀/文芸社)
サイレントK 沈黙のマウンド(石井裕也/日本文芸社)
松坂大輔「証明」(降籏学・日刊ゲンダイ写真部/PHP研究所)
友情 オレと仲間のジャイアンツ・グラフィティ(水野雄仁/ザ・マサダ)
巨怪伝-正力松太郎と影武者たちの一世紀(佐野眞一/文藝春秋)