高校野球の人間ドラマを引き出す、好評シリーズの11巻目。
今作は、シリーズ初の前後編の前編が掲載。商業的にも好調になってきたということでしょうか。
いい傾向だと思います。
今作のタイトルである「異能」とは、「人より優れており、一風変わった能力」を指します。
指導者にはその「異能」が必要、というのがタイトルの理由。なぜなら、単に野球を教える、試合で采配をふるう以外に多くの力が求められるから。
現実にたちはだかる様々な壁に挑む指導者が、今作の主役です。
まずおすすめは序章の星槎国際湘南・福冨洋祐監督の記事。
2011年に創部、集められた野球部1回生と、福冨監督の3年夏までの「戦い」を追います。
これは前編ですが、単独でも充分読めます。伝統も選手も何もない、ゼロの状態から部を作る福冨監督の奮闘ぶりが印象的です。
次のおすすめは第3章、大阪偕星学園(旧・此花学院)を指揮する山本皙監督の記事。
エピソードの1つ1つが豪快な、ひときわ異色の経歴の持ち主です。
自らも屈指のアスリートであり、45歳の今も打球は140メートル級のパワー。
韓国プロ野球の経験後、倉敷高を指揮。2人の投手をプロへ送り出す。
2010年に保険金詐欺で逮捕。証拠不十分で釈放されるも、これをきっかけに高校を解雇。
理不尽な形でグラウンドを追われましたが、激戦区・大阪に戦いの場を移します。
そんな山本監督の指導は「子ども第一」。自分の寝食を削って選手の世話を焼く姿は、なくなりつつある熱血親父のようです。
私が岡山県出身ということもあり、この章は繰り返し読みました。
それ以外ですと第2章の瀬戸内・小川成海監督も異色。
野球に対する見識もずば抜けていますが、目を引くのは2度体罰事件で監督を解任された経歴。
苦い過去を経て語られる指導観は、正解のない指導の難しさを感じます。
☆構成
序章 福冨洋祐(星槎国際湘南)
第1章 太田敦士、鈴木直勝(仙台)
第2章 小川成海(瀬戸内)
第3章 山本皙(大阪偕星学園)
第4章 有馬信夫(総合工科)
第5章 太田弘昭(京都翔英)
第6章 河野和洋(明徳義塾、専修大、日本橋学館大コーチ)
執筆陣:矢崎良一、崔仁和、中里浩章、谷上史朗、藤井利香、沢井史、渡辺勘郎
異能の球人 〜甲子園と高校野球“ここにしか咲かない花”を探して〜(矢崎良一ほか/日刊スポーツ出版社)
勝利の伝道者 〜勝つために 指揮官たちのあくなき葛藤〜(矢崎良一ほか/日刊スポーツ出版社)
人を動かす高校野球監督の名言(田尻賢誉/ベースボール・マガジン社)
挑戦者たち 〜甲子園と高校野球 挑み続ける男たち〜(矢崎良一ほか/日刊スポーツ出版社)
海と、がれきと、ボールと、絆。(スタンダード編集部/講談社)
ただ栄冠のためでなく(矢崎良一ほか/日刊スポーツ出版社)
王貞治の甲子園 -昭和31年〜昭和33年 早稲田実業学校野球部戦記-(塩澤幸登/茉莉花社)
永遠の一球 甲子園優勝投手のその後(松永多佳倫、田沢健一郎/河出書房新社)
野球からの贈りもの(平山譲/PHP研究所)
夢を力に!(矢崎良一ほか/日刊スポーツ出版社)
聖地への疾走 夢の向こうに甲子園があった(監修・矢崎良一/日刊スポーツ出版社)
甲子園 刻まれた伝説(矢崎良一・渡辺勘郎/PHP研究所)
甲子園だけが高校野球ではない(監修・岩崎夏海/廣済堂出版)
昭和十七年の夏 幻の甲子園 戦時下の球児たち(早坂隆/文藝春秋)
高校野球弱者の戦法(田尻賢誉/日刊スポーツ出版社)
野球と戦争 日本野球受難小史(山室寛之/中央公論新社)
終わらない夏 甲子園、勝者の誇りと敗者の矜恃の物語(監修・矢崎良一/日刊スポーツ出版社)
「甲子園の土」ものがたり(三浦馨著・竹田晃監修/明治書院)
ニッポン人脈記 奇跡の甲子園(朝日新聞社編/朝日新聞出版)
最弱ナイン 不登校球児の青春(柳川悠二/角川書店)
沖縄力[うちなーぢから] 高校野球の心を求めて(田尻賢誉/日刊スポーツ出版社)
南の島の甲子園 八重山商工の夏(下川裕治/双葉社)
甲子園のキセキ 時代を超えた、高校野球、6つの物語(監修・矢崎良一/日刊スポーツ出版社)
ベースボール アゲイン 国際大会の歴史とオリンピック競技復活への道(島尻譲/長崎出版)
甲子園の鼓動 球児たちの涙に染みた土(鈴木洋史ほか/竹書房)
佐賀北の夏(中村計/ヴィレッジブックス)
斎藤世代 流しのブルペンキャッチャーが見つめた青春(安部昌彦/NHK出版)
甲子園からの手紙 松商野球の源流(窪田文明/一草舎出版)
高校野球の心を求めて 公立魂 鷲宮高校野球部の挑戦(田尻賢誉/日刊スポーツ出版社)
不惑 桑田・清原と戦った男たち(矢崎良一/ぴあ)
高校野球「裏」ビジネス(軍司貞則/筑摩書房)
白球と宿命 甲子園から生まれた6つの物語(監修・矢崎良一/日刊スポーツ出版社)
続ドキュメント横浜vsPL学園-松坂大輔と戦った男たち(神田憲行ほか/朝日新聞社)
高校野球が危ない!(小林信也/草思社)
甲子園球児になるための9つの方法(田尻賢誉・三田紀房/集英社)
甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実(中村計/新潮社)
甲子園 歴史を変えた9試合 表のドラマと裏の真実(企画・矢崎良一/小学館)
斎藤佑樹くんと日本人(中野翠/文藝春秋)
八重山商工野球部物語(神田憲行/ヴィレッジブックス)
早実vs.駒大苫小牧(中村計・木村修一/朝日新聞社)
めざせ三連覇! 駒大苫小牧野球の挑戦(北海道新聞社)
永遠の球児たち 甲子園の、光と影(矢崎良一ほか/竹書房)
素晴らしき野球小僧 白球を追い続ける男たちの詩(岡邦行/ぶんか社)
日本野球25人 私のベストゲーム Number創刊25周年記念出版(文藝春秋)
一生分の夏 いつも胸に甲子園があった。(矢崎良一ほか/竹書房)
大旗は海峡を越えた 駒大苫小牧野球部の軌跡(田尻賢誉/日刊スポーツ出版社)
怪物たちの世代 その時、甲子園は揺れた(矢崎良一ほか/竹書房)
松坂世代(矢崎良一/河出書房新社)
0対122 けっぱれ! 深浦高校野球部(川井龍介/講談社)
夢の実現 都立城東高校甲子園出場物語(手束仁/アリアドネ企画・三修社)
ドキュメント 横浜vs.PL学園(アサヒグラフ特別取材班/朝日新聞社)
ドキュメンタリー'94 青い旋風 in 甲子園 -県立長崎北陽台高校野球部の熱い夏-(小笠原真司/近代文芸社)
ドキュメンタリー敗け組甲子園(島津愛介/日本交通公社)
黒い甲子園(立花孝一郎/茜出版)