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読み切り「もしダガ もしも駄菓子屋がドラッカーを読んだら」感想

(週刊ビッグコミックスピリッツ2011年12月12日/2号)

三田先生がスピリッツに読み切りを掲載したということで、読んでみました。
ちなみに巻末には「10数年ぶりのスピリッツ。当時の担当が編集長になってました」とのこと。
10数年前といえば、97年ごろに連載してた「英次のテーラー」のことですね。堀靖樹さんが担当だったと。
「マネーの拳」はスペリオールなので違います。

学ぶことのできない資質、
後天的に獲得することのできない資質、
始めから身につけなければならない資質が、
一つだけある。
才能ではない。
真摯さである。

by ドラッカー

町中を走り抜けるベンツ。
後部座席に座る男が、ドラッカーを読んで「真摯さかあ……」と呟いた。
次に、iPhoneで自社の株価をチェック。下落しているらしい。
「父親の会社を継いで5年……
経営は悪化して最大のピンチ、
どう乗り切ったらいいですか ドラッカー先生」

つまり二代目が付け焼き刃のドラッカーで経営をしていると。
この1ページだけでバカ若社長だとわかりますね。

腹痛に襲われるバカ若社長。
過敏性腸症候群ってやつ?
運転手の老人は、トイレを借りる為に駄菓子屋の前でベンツを停車させる。

スッキリして立ち去るバカ若社長を、店長が呼び止めた。
「なんか買ってけよ。トイレ使って水流して黙って帰る気か?」
ジャージに無精ひげの中年。そして根拠もなく偉そう。
見た目は「クロカン」の黒木や「ドラゴン桜」の桜木そっくり。
三田さんは明大の講演で「クロカンの黒木は自分の中ではドル箱役者」と語ったことがあるので、この男も似たようなキャラなんでしょう。
この駄菓子屋もドラッカーを読んでいるのだろうか?
名前が書いてないので、とりあえず「もしドラ」にあやかってこの男を「川島」と呼ぼう。

とりあえずうまい棒を買ったバカ若社長に対し、川島(仮)は言いたい放題。
「あんた会社の社長だろ
腹が弱いうえに、普段からそんな心掛けじゃ あんたの会社いずれ潰れるな
つうか…近いうち誰かに乗っ取られるんじゃねえか?」

そう、バカ若社長の株は謎の人物に買い占められているのだ。
図星をつかれてさすがのバカ若社長も頭に来たらしい。

川島(仮)は子供に次々と説教する。
「選んだらちゃんと元通りにしろ!
食う時は『いただきます』言え!」

お札を出した子供には「人の迷惑ってもん考えろ! 釣り銭無くなるだろ」

「子供とはいえお客さんに向かってなんて口のきき方を…」
バカ若社長にとっては信じがたい光景だったが、川島(仮)は平気な顔。
「いいんだよ。ここは俺の王国。そして俺は王様だ!
ここでは俺が法律…、ルールであり、俺が秩序だ。」

「こいつ経営というものを全く分かっていない! このまま引き下がれるか!」
バカ若社長が反撃の口火をきる。

「釣り銭を用意するのは店の義務、客の不便を解消するのがサービスだ
商売とはお客様の要望に応えてこそ成り立つもの
ドラッカー先生もこうおっしゃってる。」

企業とは何かを決めるのは
顧客である。

ドヤ顔で決めたバカ若社長。しかし「なんだそのドラッカーって」と効果なし。
「ドラッカーだかトラックだか知らねえが…
あんた客の要望ばっかり気にしてんだろ
だから経営が傾くんだよ。」

「企業とは、この店とは何かを決めるのは客じゃねえ。この俺だ!
俺はしたいようにする。売りたいものを売る」

ニーズなど知らん! と言わんばかりの川島(仮)。

そう、なんでもお客の言う事を聞いていれば店は何屋かわからなくなります。
要望に応えるのも大事ですが、自分が何を提供したいかという柱も大事です。

バカ若社長、必死に次なる攻撃。

「われわれは何を売りたいか」ではなく、
「顧客は何を買いたいか」を問う。

これまた川島(仮)に効果なし。
「そんなもん考えるよりまずてめえのこと考えろ。
おまえは何が好きなんだ、おまえが本当に売りたいものはなんだ。」

川島(仮)は経営者のこだわりを問いますが、バカ若社長は答えられない。
こだわりといえば、iPhone。
日本従来の携帯とは全く違う動作・操作感でしたが、日本に乗り込んで来る時もそれを変えることはありませんでした。
「自分たちがいいと思う携帯はこれなんだ。嫌なら買うなよ」と。

もはや勝負ありましたが、バカ若社長の最後の反撃。

企業の目的は一つしかない。
それは顧客を創造することである。

「創造だ? おまえは神か。
創造なんて神が使う言葉、俺は人間だからな やることをやる」

そう、顧客を創造するなんて思い上がりなのです。
まして半人前のバカ若社長が言うセリフではない。

「素晴らしい」
それまで、黙って見ていた老運転士が店内に入ってきました。
「この店も実に心地いい。
経営者の個性主張を感じます。
まさに王国… これこそ商売の原点、鑑(かがみ)です。」

呆然とするバカ若社長をよそに、川島(仮)をべた褒めする運転士。
そしてとんでもない提案をします。

「あなた… こちらの方の会社を経営していただけませんか」
「会社わたしが買わせていただきました。さきほど株式の51%わたしが取得したのです」

なんと老運転士、ひそかに会社を乗っ取ってました。
いわゆるエンプロイー・バイアウト(社員が自社の株を買い占め経営権を握ること)。
ジイさんがやり手というより、バカ若社長がうかつだったんでしょうね。

先代社長から運転士だったジイさんは、バカ若社長に引導を渡します。
「近日中に臨時株主総会を開きあなたを解任します。
無能な人にはとっとと出ていってもらう」

バカ若社長はごねますが……、総会で可決すればどうにもなりません。

そして、川島(仮)はなんと老運転士の申し出を受け入れます。
「今はガキどもより500人の大人の生活が大事だ」
で、お店はどうするかというと……元バカ若社長に任せてしまいました。
「ここで商売をイチから勉強しろ。」
なおも食い下がる元バカ若社長にとどめの一撃。

「人が話した言葉を鵜呑みにするバカに経営者の資格はない!
経営するならてめえで考えろ!」

現状を見て必死で考えて、そうした後に初めてドラッカーなどの先人の知恵が役に立つのです。
そうでなきゃただのオウム。借り物の言葉に誰も響きはしません。
バカ若社長は完全にノックアウト。

それを振り返りもせず、川島(仮)社長は運転士に案内されてベンツに乗り込みます。
現実を直視できない元バカ若社長は、またも腹痛でトイレに籠るのでした。
「もしダガ」完。

本誌を読まれた方、いかがだったでしょうか。
私はすげースッキリしました。
だって「もしドラ」のヒット以来、「ドラッカー」ってしたり顔でしゃべる輩が多くて多くて。
そりゃ大事なことはいっぱい書いてあるよ。たぶん。
でも、そんなこと言う前に、同僚が困ってたら手助けしてやってんの?
部下が悩んでたら聞いてやったりしてんの?
朝、大きな声で「おはよう」って言ってるか?
このバカ若社長みたいに、格言覚えただけでレベルアップした気になってるだけじゃないの?
はっきり言って痛いんだよ。
MP足りないのにイオナズン唱えてるベビーサタンと同レベルなんだよ。
そんなん覚えるヒマあったらタバコ部屋の掃除でもしろ。
もう一度書く。私はスッキリしました。

でも……、ひとつ突っ込ませてもらうなら、この駄菓子屋はドラッカー読んでないよね。
ちょっとタイトルが変な気がする。

ちなみに、経営漫画「マネーの拳」で「会社とは何か」を聞かれた主人公は、こう答えています。
「人をいっぱい雇うことだ。一人でも多く雇用し給料を払う。これ以外にない」
これもまた正しいと思います。

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